コロナになってから、私は観光客が少ないのを利用して、よく京都や奈良のお寺に行ってます。大阪はどちらへも1時間ぐらいで行けるから、便利なんですよ。好きなのは、奈良のお寺で、特に薬師寺というお寺が大好きです。何と1300年前の建築が残っている世界遺産です。でもね、周りになあんにも、ないの。コンビニも、レストランも、みやげもの屋もないの。だから初めて行ったときは、何も持たずに行って、お腹ペコペコで泣きそうになりました。でも、そこがいいんですよねえ。静かで、とても落ち着きます。だから、またちょっと、この時期に行ってくることにしました。え?忙しいのに、なぜ今かって?それはね、1年をふりかえって、来年どうするか、考える時間がほしかったからです。

年末にお寺に行きたくなる日本人は多いと思いますよ。ふだんは、お葬式かお墓参りぐらいにしか行かないんですけどね。お寺には、いい行事があるんですよ。12月31日の夜中の0時から、鐘を108回つきます。そして、この108というのは、人間の持つ悪い心の数だと言われています。え!そんなにあるの?って びっくりしますよね。でも大丈夫、これと同じ数だけ、お寺の鐘を108回聞けば、悪い心はなくなるそうです。「そうじ、いや〜、面倒くさい」と思っても、「もう1時間、マンガ読もう!仕事は明日でいいや…」と思っても、全部なかったことにしてくれるなんて、すてきでしょう? ただし、マイナスがゼロになるだけで、プラスにはなりません。それでも、気持ちよく新しい年を迎えたくて、私は毎年、近所のお寺にわざわざ、鐘をつきにいきます。

薬師寺では、お坊さんの話を聞いてから、お経、つまり仏教のテキストを写して書くトレーニングをしてきました。お話を「講話」、写して書くのを「写経」と言います。

講話ではね、何でも人や周りのせいにしないで、自分をもっと見なさい、って言われました。そりゃね、108個も悪い心があったら、人に文句も言いたくなります。できなかったことのいいわけをたくさん考えます。でもね、おっしゃるんです。「みなさん。自分の両手を見てください。あなたが何を言っても、この手を動かさなければ、何も変わりません。そして、この手はいつか動かなくなりますよ。」

そう言われると、あせってしまって、じゃあ写経をしてみようと思いました。字をたくさん書くことで、何か変わるかな。これも、お寺の鐘のように、心がリセットされるかな、と自分の心の変化を待ちました。

あーだめだったなあ、甘かったあ。262個の漢字を、昔の人のように筆(ふで)と墨(すみ)で書くんですが、これがなかなかうまく書けない。これ、筆が悪いんじゃないの?とか、難しい漢字多すぎ、とか文句しかないせっかく、いい講話を聞いたのに、台無しです。1時間聞いた講話が、1時間の写経で台無し。21回も「無」つまり、何にもない、という漢字が出てきたんだけど、そのたびに、どうして上手に書けないの!とイライラして、ちっとも「何にもない」気持ちには、なれませんでした。まだまだ、修行が足りませんね。

外国人観光客が、また日本へ来られるようになってから、3か月たちました。お寺を訪れる方も多いと思います。確かに金閣寺(きんかくじ)はピカピカできれいし、清水寺(きよみずでら)は景色はとてもすばらしいです。けれども、日本人とお寺の関係を見たかったら、ぜひ年末にお越しください。108回の鐘つきだけでなく、国宝の仏像を豪快にそうじする様子なども見られます。みなさんの心の中に、何か悪い気持ちは残っていませんか。鐘つきは外国人も参加できます。

無題

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